連用中止の「ず」と「おり」
人に頼らないで、自分でする。
相談しないで、決めた。
設備が整っていて、使いやすい。
「頼らず」「相談せず」「整っており」と連用中止に書きかえる問題です。
作文力チェックではこれもほとんどの人ができませんでした。
レポートの書き方ではいつもレポートの文体・表現として否定の連用中止「ず」と「しており」を取り上げています。
作文の教科書でもよく取り上げられるように、不規則な形として覚えるしかありません。
日本の中学や高校で勉強する古典文法の知識があれば、「ああ、あれか!」と思い出すことでしょう。
しかし、留学生にはそのような古典文法を知っている人はほとんどいません。
毎度のことながらできていないなあ、と学生の答を見ています。
とはいえ、ふとどうして古典文法でお目にかかるような形のうち、「ず」と「おり」は息長く使われ続けているのか、とも思います。
ところで、「おり」という連用中止をレポートの文体で勉強した学生さんの中には、「・・・しておる。」「・・・述べておる。」のように文の終わりまで「おる」で書いてしまう人もいました。
学生のレポートに「述べておる。」などと書いてあったら、年配の男性が書いた文章だろうかと思ってしまうでしょう。
最近研究が進んでいる「役割語」の中で、漫画の中の博士が話す「博士語」を思い起こします。
確か以前読んだ国語学や国語教育の論文の中で「〜先生(〜氏)は〜述べておられる。」のように大家の先生の言葉への謙遜を感じさせる引用の表現がありました。
現在日本語教育で教えている文法なら、尊敬の受身形「述べられている。」、または尊敬語「おっしゃっている。」「述べていらっしゃる。」と書くべきところでしょう。
なお、レポートや論文に敬語を用いて師や先達を敬う表現にすることは今はなくなったようで、最近の論文では敬語を用いて引用するものは見かけなくなりました。
先ほどの「役割語」について実際の博士はそのような話し方はしないということですが、「〜しておる」のニュアンスの名残が一昔前の論文の表現に残っているのかもしれません。
●「役割語」について。『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』金水敏、岩波書店、2003年
- 作者: 金水敏
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