自他動詞の選択と「ピリオド越え」「無人称」
政府は「改正道路交通法」を施行した。この法律により、検問で飲酒運転と認定( )た場合には直ちに免許停止にすることにした。
「認定(し)た」でも「認定(され)た」でもよさそうに見えます。
ところが、昨日の作文の受講者で、「認定(され)た」と書いた人は数名いましたが、「認定(し)た」と書いた人はいませんでした。
実は、元の文は次のB「認定(し)た」でした。
A 政府は「改正道路交通法」を施行した。この法律により、検問で飲酒運転と認定(され)た場合には直ちに免許停止にすることにした。
B 政府は「改正道路交通法」を施行した。この法律により、検問で飲酒運転と認定(し)た場合には直ちに免許停止にすることにした。
1文目の「政府」が助詞「は」で主題になっています。
2文からなるこの文章は、政府が話題かつ文章全体の主体と考えられます。
すると、
A'「政府は・・・。この法律により、<警察官が国民を>・・・と認定した場合には・・・にすることにした。」
と続くはずです。
2文目だけを見ると、
B'「<政府の施行した>この法律により、<国民が>・・・と認定された場合には・・・にすることにした。」
でもよさそうに見えます。
しかし、1文目の「政府は」は2文目にもかかっているので、B「認定(され)た」よりA「認定(し)た」のほうがこの文章には適切だと考えられます。
この文章のような「政府は」の助詞「は」を三上章の文法書は「ピリオド越え」と名づけています。
つまり1文を超えて2文目以降にも影響を及ぼす「は」という意味で、文末マークのピリオドを超えるからです。
2文目の最後が自動詞文「・・・することになった。」ではなく他動詞文「・・・することにした。」であることからも、1文目の「政府は」が2文目の最後の「・・・することにした。」と呼応していると考えられます。
または、B「認定(され)た」にした人は「法律により、<国民が>・・・と認定(され)た」を「法律が国民を・・・と認定した」の受身文と考えたかもしれません。
しかし、「認定(し)た」は飲酒運転になる条件を示しただけもので無人称の用法だと考えると、「認定された」という受身形にする必然性はありません。
この無人称という考え方も三上章の文法書に書いてあります。
以上2つの解釈を考えてみましたが、「ピリオド越え」「無人称」のような文法規則を考えなくても、おそらく日本語の母語話者なら無意識にBの文章を作れるのではないでしょうか。
一方、日本語が母語でない留学生にはBの文章はなかなか手ごわい相手のようです。
●「ピリオド越え」について。『象は鼻が長い』三上章、くろしお出版、1960年
●「無人称」について。『構文の研究』三上章、くろしお出版、2002年
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